daibook’s blog

読んだ本の感想を書きます。Amazon Kindle Unlimitedを中心に利用していますが、その他の本についても書いていきたいです。

【小説感想】『坂の上の雲(4)』司馬遼太郎

遂に日露戦争が幕を開ける。
第4巻は、過言を恐れず言えば、日露戦争を理解するための伏線的な立ち位置の巻であるように思う。

純粋な事実の連続たる戦史を、小説として成り立たせるとき、その一部は説明的にならざるを得ない。
そういった前提をもって、この第4巻がある。
第4巻は遼陽、沙河、黄海海戦を経て、ついに旅順要塞攻略へと向かう。これらの史実を小説たらしめる要素こそ、司馬史観と表現されるモノの根源であろう。

本作における、司馬史観とは?
それは、司馬による日露それぞれに対する民族観だ。
退却をしながらも、圧倒的勝利を求めるロシア軍は、戦局を操る魔術的な発想を持っている。日本軍は、経済的限界の中で戦う前提から抜け出せず、黄海では敵軍全滅を期した作戦計画を立ち上げ、また遼陽ではギャンブル的な奇襲作戦に転じる危うさを持つ。一方で、金策について予防線を張り、対極での勝利をもぎ取ろうとするあたり思考の枠組みの広さを感じる。
いずれも、それらの優劣に関わらず、戦争を形成する最も大きな要素であることを司馬は強調する。
それこそが司馬史観であり、また第4巻ではそれが今後の物語を補強するかの如く機能している。

これは個人的な意見としてだが、藩閥体制の中から日露戦争の壮大な戦略を立案できる視座を持ちえた、日本の民族性を賛美するような趣があるように思う。

 

新装版 坂の上の雲 (4) (文春文庫)

新装版 坂の上の雲 (4) (文春文庫)